地域特性を活かした新築住宅の設計ポイント
家を建てるとき、最初に考えるのは「どんな家にしたいか」ということかもしれません。
リビングは広くしたい。庭が欲しい。明るい家にしたい。家族が自然と集まる場所にしたい。
もちろん、そうした希望は大切です。
でも、設計をする側からすると、その前に見ておきたいものがあります。
それは、その家が建つ場所です。
朝、どこから光が入るのか。
夏の午後、どこに強い西日が当たるのか。
風はどちらから吹くのか。
雨が降ったとき、水はどこへ流れるのか。
周囲の家から、どこまで視線が届くのか。
同じ鹿児島でも、敷地が変われば答えは変わります。
だから私たちは、「鹿児島らしい家」を決められた形でつくるのではなく、その土地にしかない条件を読み取り、そこから住まいの形を考えることを大切にしています。
大きな窓があれば、明るい家になるとは限らない
住宅の設計では、「明るい家にしたい」というご要望をよくいただきます。
そこで大きな窓を設ければ、確かにたくさんの光を取り込むことができます。
ただ、鹿児島の強い日差しまで一緒に取り込んでしまうと、夏には室内が暑くなり、冷房への負担も大きくなります。
だからこそ、窓は「大きさ」だけで考えません。
どの方向に開くのか。
どの高さに設けるのか。
軒や庇で夏の日差しを遮れるのか。
庭や植栽を介して光を取り込めないか。
そうしたことを一つずつ考えていきます。
明るさと暑さは、ときに表裏一体です。
光をたくさん入れることではなく、その家にとって心地よい光を入れること。
そこに、設計の面白さがあります。
「風通しの良い家」も、窓を開ければ終わりではない
鹿児島の住宅では、風の通り方も重要なテーマです。
ただし、「窓をたくさん開ければ風が通る」というほど単純ではありません。
周囲の建物によって風の流れは変わりますし、季節によっても風向きは変わります。
さらに、夏の暑い時間帯や湿度の高い日には、外気を取り込むことが必ずしも快適につながるとは限りません。
だからこそ、自然の風を取り込むことだけを目的にするのではなく、断熱や日射遮蔽、換気、冷房まで含めて考えます。
窓を開けて気持ちよく過ごせる日には、風を取り込む。
外が暑い日は、しっかり閉じて室内の快適さを守る。
自然に開く家と、必要なときには閉じられる家。
その両方を持っていることが、鹿児島の住まいには大切だと考えています。
鹿児島では「雨」と「灰」も、暮らしの一部
鹿児島で家を設計するなら、雨や台風への備えも欠かせません。
さらに、地域によっては桜島の降灰も暮らしに影響します。
例えば、洗濯物をどこに干すのか。
窓を開けて過ごしたい場所はどこなのか。
玄関から室内へ入るまでに、外の汚れをどう持ち込まないようにするのか。
こうしたことは、図面だけを見ているとなかなか気づきません。
しかし、実際の暮らしを想像してみると、意外と大切なことだったりします。
住宅は、見た目の美しさだけで完成するものではありません。
雨の日も、風の強い日も、灰が降る日も、いつものように暮らせること。
そうした日常の積み重ねまで考えることが、地域に合った住宅設計につながっていきます。
屋根や外壁は、10年後の姿まで考える
新築住宅では、完成したばかりの美しさに目が向きます。
けれど、家は完成してからの時間の方がずっと長いものです。
鹿児島では強い日差しや雨、台風などによって、建物の外側は日々少しずつ影響を受けます。
だからこそ、屋根や外壁の素材を選ぶときには、色や質感だけではなく、耐久性やメンテナンスのしやすさも考えます。
「完成したときにきれい」だけではなく、
「時間が経っても、いい家であること」。
これは、私たちが住宅を設計するときに大切にしていることの一つです。
地域の素材を使うことだけが「地域性」ではない
鹿児島の家だから、鹿児島の木材を使う。
それも一つの方法です。
ただ、私たちは「地元の素材を使えば地域性が生まれる」とは考えていません。
地域性というのは、もっと広いものだと思っています。
その土地の光をどう取り込むか。
風や雨とどう付き合うか。
周囲の風景をどう眺めるか。
庭と室内をどうつなぐか。
そして、その場所で家族がどんな時間を過ごすのか。
そうしたものが重なって、初めてその家らしい風景が生まれます。
素材だけでなく、暮らしそのものを土地になじませていくこと。
それも、地域特性を活かすということなのだと思います。
家族の暮らしも、設計条件のひとつ
土地だけを見ていても、良い住宅にはなりません。
そこに暮らす人のことも、同じように考える必要があります。
朝は家族全員が忙しいのか。
休日は家で過ごすことが多いのか。
子どもが成長した後も、この間取りで暮らしやすいのか。
庭で過ごしたいのか、それとも室内でゆっくり過ごしたいのか。
家族の数だけ、暮らし方があります。
だから、最初から「正解の間取り」を用意するのではなく、話を聞きながら、その家族にとって必要な場所を一つずつ見つけていく。
私たちが設計の初期段階で、暮らしについてじっくりお話を伺うのはそのためです。
「その土地だから、この家になった」
住宅設計には、決まった答えがありません。
同じ家族が、別の土地に家を建てれば、きっと違う家になります。
朝の光がきれいに入る場所があれば、そこに窓を設ける。
外からの視線が気になる場所には、壁や植栽で距離をつくる。
庭とリビングをつなげることで、家の中にもう一つの居場所をつくる。
夏の西日が強ければ、庇や開口部の位置を考える。
そうやって土地と暮らしを一つずつ読み解いていくと、最初は制約に見えていたものが、その家だけの個性になっていくことがあります。
私たちが目指しているのは、どこかで見たことのある「鹿児島の家」ではありません。
「この土地だったから、この家になった」
そう思える住まいです。
何十年後も、その場所で暮らす人に愛されていること。
その家が少しずつ家族の記憶を重ね、やがてその場所になくてはならない風景になっていくこと。
それが、私たちが考える「地域特性を活かした住宅設計」です。